着物フィクション日記2004/09/11

アネノコイビト
  「姉の恋人」


あぁ、姉についてきてしまった…。
アナタとの思い出がつまった家へ。
橋を渡ると左に船宿、右にたばこ屋。あの頃と変わらない佇まい。



違うのはアナタがいないこと。

姉の恋人だったアナタ。
そうわかっていても会いたくて、たばこ屋にいつも遊びに行った。

この橋まで来るといつもアナタが見えた。いつもここから手を振って挨拶した。
今日は誰もいない、ひっそりとした たばこ屋。

 

そんなたばこ屋を姉はどんな気持ちで見ているのだろう。

姉は看板娘と親しまれ、よく店先に座っていた。
アナタと多く過ごしたその場所で、今、姉は寂しく微笑む。




休みの日はこの2階でよく過ごした。
新しいレコードが入ったというと聞かせてくれ、
舶来品の店からコーヒー豆を買ってきたからと
ご馳走してくれた。
姉には内緒の、小さな秘め事もあったこの部屋。
憶えていますか。

窓から見える風景はすっかり様変わりしたけれど
この部屋には懐かしい匂いがとどまっていた。

夏はこの縁側でスイカを食べ、花火をした。



寒い日はみんなで火鉢を囲んだ。



「おまえの手はいつも冷たいな」と言いながら姉の手を温めたアナタ。
私も温めてほしかった。火傷してもよかった。
二人のその光景をみるのが辛くて、水場へおばちゃんの手伝いに
立った。
ここで何度、涙も一緒に洗い流したことだろう。



着物が仕立て上がった時には、真っ先にアナタに見せにいった。

この着物はアナタが「よく似合うよ」と言ってくれた赤いおべべ。
アナタが好きだった萩の葉。不器用ながら萩の帯も作った。

 

うちのミシンが調子悪い を口実にして、年中このミシンを使わせてもらったわ。



この場所からアナタがよく見えた。
忙しくしているアナタの邪魔をせず、近くに居られる恰好の場所だった。
たまに覗きにきては「相変わらずヘタだなー」と決まって笑われたが
「頑張れよっ」と、大きな手で優しく頭をポンポンと叩かれるのが大好きだった。
今は少し上手になったよ、と心の中でつぶやく。



新しいおべべ選びは乙女の至福の時間よ。
アナタが似合うと言ってくれた赤をつい手にしてしまう。



でも、もう、アナタにはみてもらえない…。

みてもらえない…。


けれど、
赤いおべべが好きなヒトにまた出逢うのかもしれない。




空を仰ぎみながら「見守っていてくださいね」と 祈る。

 

おわり。




これはフィクションです。写真を元にした作り話です。内容を本気にしないでください。
お馴染みさんにはご存知の、「姉」=あきらこさん、「私」=冬桃 となっております。
話がヘンだとか、どうかつっこまないでくださいね。写真を組み合わせただけの作り話なんですから!
たまにはキュンといたしませう♪
この日の本当の着物日記は こちら からどうぞ〜。




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